2019.08.21
「ほんとうに歯の神経を抜かないといけませんか?」~抜髄を回避して、歯髄を残す治療法~
「神経を抜きましょう」。
歯医者さんでこの言葉を聞いて、ドキッとした方は少なくないのではないでしょうか?
神経を抜くってどういうこと?抜いたらどうなるの?抜かずに済む方法はないの?
など思いつつも、よくわからないし先生がいうからそのまま神経を抜いてしまう。
という方もいるのではないでしょうか?
決して神経を抜くこと自体が悪いわけではなく歯を守るために必要であれば抜かないといけません。
しかし一旦抜いてしまった神経は戻らないですし、その後根管治療などを行ったり歯自体を長持ちさせるためにどのようなことに気を付けるべきか、また神経を抜かずに治せる方法がないのか?を知っておくことは重要です。
この記事では、生きた歯を少しでも長く持続させるために、神経を抜くことのメリットやデメリットを踏まえて紹介していきます。
この記事の目次
「歯の神経を抜く」ことの必要性
虫歯が進行すると、細菌感染が歯の奥に向かって進みます。
虫歯治療ではこの感染部分を取り除くのですが、感染が歯の内部にある神経に達すると、「神経を抜きましょう」といわれます。
「歯の神経」は正しくは歯髄(しずい)といい、神経だけでなく歯に栄養を運ぶ血管も含まれています。
歯髄を取りのぞく治療のことを抜髄(ばつずい)と呼びます。
抜髄の目的
1.感染部位の削除と感染拡大の予防
歯髄が細菌感染すると、やがて壊死(えし:からだの組織の一部分が生命をなくすこと)します。
歯髄には血管が含まれており、歯髄が壊死するとやがて新鮮な血液が流れなくなるため感染があごの骨全体にまでめぐることがあります。
抜髄は歯髄を取り除くことにより、細菌感染の拡大を予防する効果があります。
2. 痛みのケア
歯の知覚がなくなるため、痛みを取り除けます。
抜髄のデメリット
重要な目的を持った抜髄治療ですが、それにより歯が割れやすくなったりひびが入りやすくなることで歯の寿命が短くなってしまいます。
※程度には個人差があります。
デメリット1. 抜髄をした歯は強度が落ちて破折しやすい
抜髄をした歯のことを無髄歯(むずいし)といいますが、無髄歯は強度が低下します。そのため破折(歯が割れたり、折れたり、ひび割れすること)などのリスクが高まります。
※日本で歯を失う原因の第三位が破折です。
デメリット2. 無髄歯は知覚がなくなるため、次のトラブルを招きやすい
無髄歯は知覚がないため、歯が痛むこともしみることもありません。
つまり自分では歯のトラブルに気づけないので、定期的なメンテナンスを受けてお口を清潔に保つ必要があります。
デメリット3. 歯が変色する
抜髄した歯は、象牙質に微細な汚れが蓄積していくため、着色していきます。
デメリット4. 神経を抜いた空間が感染した場合に、痛みや腫れが出てくる場合がある
数年後、神経を抜いた歯の空間が菌に感染して歯ぐきが腫れて強い痛みが出ることがあります。
その場合、再根管治療や外科療法で治療することになります。
デメリット5. 再治療率が高い
抜髄は歯の根の内側というとても微細な空間を治療対象とします。
また汚れが残ったり根管を傷つけたりすると、そこから感染が起きて再治療となるため、保険診療では治療にとても時間がかかります。
※なお、初回の抜髄をきっちりと行うことが、再治療を防ぐ最善・最短の選択肢です。
これらのデメリットからわかるように歯を長持ちさせるにはできるだけ神経は残しておきたいものです。
しかし、神経まで感染した(またはする可能性のある)歯をそのままにしておくわけにはいきません。
ではどのよう対処することが良いのでしょうか?
歯髄(歯の神経)を温存する治療
歯髄を除去すると歯の寿命が短くなるため、抜髄を回避して歯髄を温存する治療の研究が進んでいます。
それが、「覆髄法(ふくずいほう)」と呼ばれ歯髄を温存する治療法になります。
では、どのようなものかを解説します。
覆髄法(ふくずいほう)とは
覆髄法とは、抜髄適用のケースに対して、歯髄の温存を目的とする治療です。
歯髄に細菌感染がない場合、覆髄法(ふくずいほう)を選択します。
例えば、虫歯治療で象牙質を削ったり、転んで歯が欠けたりした時に、「歯髄が露出したけど感染していない」ケースです。
従来の治療では、歯髄が露出しただけでも感染予防のために抜髄をしていましたが、抗菌性・封鎖性に優れた「バイオセラミックセメント」を使用することで歯髄の保存が可能になりました。
バイオセラミックセメントとは
バイオセラミックセメントは、封鎖性・抗菌性・生体親和性に優れており、世界でも広く認められている薬剤です。
保険適応外ですので取り扱ってない医院さんもありますが、当院では歯を残すための選択肢を増やす、そして治療の成功率を高めるために、数種類のバイオセラミックセメントを組み合わせて使用しています。
メリット
抜髄を回避できることが最大のメリットです。
デメリット
デメリット1. 歯髄を温存できない可能性
実際に歯髄まで削りマイクロスコープで観察してから、歯髄の温存が可能かどうかを検査します。
そのため、歯髄温存療法ができない可能性があることをご承知いただいてからの治療となります。
デメリット2. 治療後に抜髄する可能性
歯髄温存療法では抗菌性の薬剤を使用しますが、それでも何らかの理由で歯髄炎が起きたり壊死したりする可能性があります。
その場合は抜髄になる可能性が高いです。
※当院は歯内療法の専門医が専門の機材で治療し、治療の成功率を高めるために手を尽くしております。
歯髄という大変デリケートで、近年まで保存修復が難しい分野であったことをご承知ください。
当院では”生きた歯”をあきらめたくない方に寄り添った治療を行います。
ではどのような手順で治療をすすめるのかを紹介します。
覆髄法(歯髄温存する治療)の方法と手順
1. 麻酔
通常、局所麻酔で治療を始めます。
2. 治療前の準備・ラバーダム
ラバーダムを装着して、治療する歯だけを露出します。
唾液に含まれる細菌や見えない汚れを遮断するラバーダムは、治療を行う上でとても重要になります。
もし、細菌が歯髄や根管内に残ってしまうと、そこから細菌が繁殖して、再治療が必要になってしまいます。
*治療成功のカギを握る要因は、無菌状態をいかに保てるかに尽きます。
当院ではラバーダムに使用する器具、ラバーダムシートはすべて個別に減菌しています。
3. 歯髄検査・感染箇所の除去
う蝕検知液と呼ばれる虫歯を染める染色液を使用して、感染象牙質を除去し、マイクロスコープを用いて診察します。
4. バイオセラミックセメントの充填
バイオセラミックセメントを充填(隙間や亀裂を「埋める」こと)し、フッ素入りセメントや仮歯を入れてその日は終了です。
治療当日は痛みがでる場合がありますが、鎮痛剤を服用して落ち着けば大丈夫です。
*バイオセラミックセメントは海外では歯の根に関して効果的な治療法として使われていますが、とても高価な材料で日本では保険適応外になっております。
しかし、より歯を長く活かすためには必須といえる詰め物とされております。
5. 歯冠修復処置
経過観察を行い、歯髄の生活反応を確認して正常値であれば治療終了です。
その後、被せものの治療を行います。
被せものの治療はかかりつけの医院にて治療していただけます。
根管治療専門医の紹介
医療法人社団天城会設立 理事長
橋爪エンドドンティスデンタルオフィス 院長
橋爪 英城
・歯内療法 専門医
・根管治療専門医 専門医
・日本歯科保存学会歯科保存治療専門医認定 専門医登録番号710号
・日本大学松戸歯学部専任講師
・デンツプライシロナ公認インストラクター
当院へのお問合せ
当院へのご相談の80%は、他院で抜歯を勧められた方です。
抜歯の回避を検討している方は、お電話:03-5200-7116で初診の予約をおとりください。